総合地質 6巻 1号 2022年10月30日発行


- 総説 -

北海道の文化と石材,特に小樽市とその周辺地域を中心とした文化地質学的検討 [ウェブ閲覧用PDF 1.0MB] [高解像度PDF 13.0MB]

松田義章
総合地質, 6巻, 1–12 頁

要旨

 北海道の文化史において石材との関わりが大きい文化として,縄文後期,続縄文及び近代の文化の3つの文化を取り上げ,文化と石材との関わりについて検討した.
 北海道における「石の文化」は,縄文文化( 後期) に石の文化の象徴であるストーン・サークルが本州東北北部のそれとは構造が単純化し小型化するなどの変化をとげて,やがて,「土の文化」としての周堤墓へと変化していく分岐点としての特徴を有する.また,続縄文化のフゴッペ洞窟等における刻画の,ユーラシア大陸北東部ないし本州の「海人」による外来の文化に対して,土着の続縄文文化がそれを許容するような開かれた文化であった.さらに,近代の札幌と小樽における「札幌軟石」や「小樽軟石」の活用の文化が,官庁舎や石造倉庫等の石造建築物を構成する「石の街」の形成に寄与した.



- 論説 -

三波川変成岩類の上昇:メカニズムとプロセス [ウェブ閲覧用PDF 1.4MB] [高解像度PDF 3.7MB]

君波和雄
総合地質, 6巻, 13–33 頁

要旨

 三波川変成岩類の上昇メカニズム・プロセスは充分に明らかになっていない.本論では,変成岩類の原岩の堆積年代,三波川変成帯から北部秩父帯の地質構造に基づき,三波川変成岩類上昇メカニズムを検討する.三波川変成岩類の上昇シナリオは,以下のように推定される.
1) 三波川変成帯は四万十帯北帯の深部相であり,北部秩父帯は三波川変成帯の上載層をなす.
2) 三波川変成帯緑泥石帯は,四万十帯北帯のKS-II からおもに構成され,少量のKS-I を含む.
3) KS-II の主要堆積期であるカンパニアン期−前期マーストリヒチアン期に多量の陸源砕屑物が海溝に集積し,付加体深部で多量の底付けが行われた.
4) KS-II の底付けによって三波川変成帯から北部秩父帯の構成岩石が上昇した.KS-I とKS-II は,初生的にほぼ水平に底付けした.底付けの進行によって焼山寺アンチフォームが形成され,その南翼を構成する三波川変成帯のKS-I とKS-II および北部秩父帯が南傾斜,南フェーシングになった.5) 展張場となった三波川変成帯の北側と南側には白亜紀末−前期暁新世に正断層が形成され,上載層が除去された.



- 論説 -

北海道登別市のカルルス粘土層の珪藻群集と火山灰組成 [ウェブ閲覧用PDF 0.5MB] [高解像度PDF 6.3MB]

嵯峨山 積・佐藤 明・井島行夫・岡村 聡
総合地質, 6巻, 35–38 頁

要旨

 登別市カルルス町には湖沼堆積物であるカルルス粘土層が分布する.同層は登別軽石流堆積物Ⅰにより登別川(旧名;千歳川)が堰き止められ堆積したとされ,珪藻群集と火山灰組成の分析を予察的に行った.珪藻化石はPinnularia subcapitata (Ehr.) Greg. が優勢種で,Pinnularia 属が特徴的に多産し,堆積環境は静穏域とは考えられない.火山灰は今のところ対比可能なものはない.



- 論説 -

西南北海道北部,磯谷地域の新第三紀磯谷層の珪藻生層序 [ウェブ閲覧用PDF 0.9MB] [高解像度PDF 1.3MB]

菅原 誠・嵯峨山 積
総合地質, 6巻, 39–46 頁

要旨

 西南北海道北部の磯谷海岸に分布する磯谷層は,主に中新世の地層と考えられてきたが,同層シルト岩部層から,後期中新世から前期鮮新世の年代を示す珪藻化石が得られた.また,磯谷地域から東方の蘭越地域にかけて広く分布する上位層の尻別川層は,従来鮮新世の地層と考えられてきたが,更新世初頭の可能性が指摘されており,今回得られた珪藻化石年代は層序の再検討が必要であることを示している.黒松内低地帯以南の地域では,微化石層序が詳細に検討されており,広域対比では磯谷層シルト岩部層は,今金地域の黒松内層住吉シルト岩部層に対比される可能性が高い.



- 論説 -

北海道倶知安町高砂の法面に現れた古倶知安湖堆積物 [ウェブ閲覧用PDF 1.8MB] [高解像度PDF 14.8MB]

井上 隆・関根達夫・岡村 聡・小田桐 亮・嵯峨山 積
総合地質, 6巻, 47–56 頁

要旨

倶知安町高砂の自衛隊駐屯地の西側の掘削に伴う法面の地質スケッチを行い,層序と層相および変形構造について記載検討を行った.法面には下位より古倶知安湖堆積物と考えられる” 縞状粘土” やSpfl の再堆積層(凝灰質砂礫)およびこれらを覆う岩屑なだれ堆積物が累重している.
 “ 縞状粘土” の上部にはスランプ等の堆積物滑動現象によると考えられる褶曲や破断などの変形構造が見られ,同粘土の堆積した期間をとおしてその堆積場と堆積環境が常に安定していたわけではなく,堆積後期に何らかの変動を被ったことが明らかとなった.また,” 縞状粘土” とSpfl の再堆積層を合わせて変位させる衝上断層も法面南端付近で観察された.
 これら地質構造の形成時期は,Spfl の再堆積時期を挟んで,2 回あったことが明らかになった.



- 論説 -

北海道東部然別湖北岸ヤンベツ川下流の後期更新世~完新世の湖沼堆積物と大雪御鉢平カルデラ起源降下火山灰について [ウェブ閲覧用PDF 2.1MB] [高解像度PDF 21.9MB]

岡 孝雄・大西 潤
総合地質, 6巻, 57−80 頁

要旨

 北海道十勝地方北部の然別湖北~北西側には旧期然別火山群形成以前で更新世の古い時期の湖沼の堆積物とされたヤンベツ層が存在している.然別湖北岸のヤンベツ川下流域の同層について現地調査を行った結果,然別湖の湖面変動を反映した中位段丘堆積物および低位段丘堆積物として存在することが分かった.さらに,AMS14C 年代測定,花粉分析および火山灰分析を行った結果,中位段丘堆積物最上部(厚さ4m)は3 万年前~ 2.5 万年前頃の最終氷期後期(MIS3 後半)の堆積物,湖岸キャンプ場付近の低位段丘堆積物は完新世の最温暖期頃(6,000 ~ 7,000 年前頃)~ 3,000年前頃までの数1,000 年間の堆積物であり,現在の然別湖(4 ~ 5 万年前に形成し現在まで持続)の堆積物の一部を構成することが明らかとなった.



- 報告・資料 -

最近の北海道およびその周辺の地震活動 (2018 ~ 2021) [ウェブ閲覧用PDF 0.4MB] [高解像度PDF 2.1MB]

高波鐵夫
総合地質, 6巻, 81−84 頁

要旨

 北海道では津波を伴った超巨大地震が起きる傾向が強く,最近,千島海溝に沿った海底では大地震が予想され,津波による被害が心配されている.一方,深さ20 km 程度以浅の陸域の浅い地震活動はあまり活発ではないが,最近,宗谷地方北部で震度4〜5程度の浅い地震が頻発した.やや深い20 km 〜40 km でも浦河沖地震や北海道胆振東部地震などM7 程度の被害地震が発生した.北海道では新しい地震情報の更新が重要になっている.



- 自由投稿 -

支笏湖南岸「苔の洞門」の洪水史 [ウェブ閲覧用PDF 0.8MB] [高解像度PDF 7.6MB]
宮坂省吾
総合地質, 6巻, 85–91 頁



- 論文紹介 -

[ウェブ閲覧用PDF 1.1MB] [高解像度PDF 13.5MB]
君波和雄
総合地質, 6巻, 93−100 頁

Schellart, W.P., 2020, Control of subduction zoneage and size on flat slab subduction. Front. Earth Sci., 8, doi: 10.3389/feart.2020.00026.

Abers, G.A., van Keken, P.E. and Hacker, B.R., 2017, The cold and relatively dry nature of mantle forearcs in subduction zones. Nature Geosci., DOI: 10.1038/NGEO2922.

McGary, R.S., Evans, R.L., Wannamaker, P.E., Elsenbeck, J. and Rondenay, S., 2014, Pathway from subducting slab to surface for melt and fluids beneath Mount Rainier. Nature, 511, doi: 10.1038/nature13493.

Pommier, A. and Evans, R.L., 2017, Constraints on fluids in subduction zones from electromagnetic data. Geosphere, 13, 1026−1041.

Förster, M.W. and Selway, K., 2021, Melting of subducted sediments reconciles geophysical images of subduction zones. Nature, 12, https://doi.org/10.1038/s41467-021-21657-8.

Simanenko, V.P., Rasskazov, S.V., Yasnygina, T.A., Malinovskii, A.I. and Chashchin, A.A., 2007, Early Cretaceous volcanic rocks and Early Cenozoic extrusions of Cape Mary, Schmidt Peninsula, North Sakhalin: Geochemical study. Russian Jour. Pacific Geol., 1, 265−275.

Werner, R., Baranov, B., Hoernle, K., van den Bogaard, P., Hau, F. and Tararin, I., 2020, Discovery of ancient volcanoes in the Okhotsk Sea (Russia): New constraints on the opening history of the Kurile back arc basin. Geosciences, 10, doi:10.3390/geosciences 10110442.

De Grave, J., Zhimulev, F.I., Glorie, S., Kuznetsov, G.V., Evans, N., F. Vanhaecke, F. and McInnes, B., 2016, Late Palaeogene emplacement and late Neogene−Quaternary exhumation of the Kuril island-arc root (Kunashir island) constrained by multi-method thermochronometry. Geosci. Front., 7, 211−220.



[追悼]

総合地質, 6巻, 101 頁 [PDF 0.3MB]


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