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本論文は, 20 世紀末頃に全国に展開された高密度地震ネットワークで観測された地震波形を用いて, 北海道直下の詳細な地震波減衰構造 (周波数に依存しないQ-1) をイメージしたものである. 地震波減衰Q-1は, 地球内部の物性を知る貴重な観測パラメータあるが, そのQ-1の計算のためには多くの観測点から入手した地震波形の周波数解析が不可欠である. 一般にQ-1推定を行うには, 各地点で起こった地震のP波, S波を記録した地震観測点毎に周波数解析を介して求めるものである. 本研究では, 従来の個々の地震-観測波形の周波数解析法とは異なり, 上記の定常稠密地震観測ネットで記録された膨大な数の地震波形データに周波数解析を施してQ-1を推定した. とくに震源メカニズム, 震源から観測点までの距離依存性が無視できる後続波 (コーダ波) の利用, バックグランド・ノイズとコーダ波振幅との振幅スペクトル比2以上の明瞭な地震の選択, そして先行研究で求めた高精度の3次元地震波速度分布を採用など可能な限りの効果的なQ-1推定法を試みている. もちろんそのための膨大な計算には昨今の高性能な計算機の出現も大きく依拠していると云えよう.
上述の解析から求まった地震波減衰Q-1の空間的分布から, 太平洋スラブ上の深さ10〜80 kmの地殻とマントルウェッジ内ではhigh Qpゾーンが, 一方北海道東部および南部の背弧側のマントル・ウェッジ内ではlow Qpゾーンが明瞭にイメージされた. それらを可視化した図からはマントル・ウエッジの深部から伸びたlow Qpゾーンが, 火山フロント直下のモホまで続いているのが理解できた. その地理的分布のパターンは すでに著者・他 (2012) が示した地震波低速度構造の分布と調和的であった. それはマントルウェッジ深部からの上昇流体の存在を暗示させた. しかし, 大雪山系から石狩低地帯に続く非火山域 (火山帯・ギャップと呼ぶ) ではそのパターンは確認されず, かつその海溝側延長にある日高衝突帯では地震波減衰構造の大きな不均質性も従来通り明らかになった. また千島弧ー東北弧との衝突帯にある日高主衝上断層西側の深さ0-60 kmにあるlow Qpゾーンは先行研究で指摘された地震波低速帯とほぼ同じ場所に位置するなど地震波減衰Q-1と地震波速度構造との合理的物性が暗示された. さらにそのlow Qpゾーンの端で, 1970年日高山脈地震 (M6.7) と1982年浦河沖地震 (M7.1) の比較的大きな地震が発生していた. それらの事実は, 静的な速度・減衰構造境界に蓄積された歪みが地震という断層運動で解消しているのを暗示する, 速度・減衰構造と地震との関連性を明示できた点は特筆すべきである.
今までにも同様な研究が, 個々の小規模地震観測データに基づいて行われ, ほぼ同様な結果が指摘されてきた. 本研究は, さらに定常的な広域稠密地震観測ネットで観測した膨大な地震波形データからの減衰Q-1構造のイメージングであることから, より詳細, かつ正確な北海道下の島弧-島弧衝突過程, マグマ活動, 地震テクトニクスの空間的理解が進展すると期待される.
[この論文は 2019/07/08 開催の第1回論文輪読会で取り上げられたものです. HRCG Office]
北海道においても超巨大地震は本当に起こるのか
私の所属していた北海道教育大学では2006年から北海道の太平洋沿岸において津波によって運ばれ地層中に残された「津波堆積物」の研究が継続的に行われていました. この津波堆積物は17世紀頃に堆積したとされており, その堆積物を運んだ津波の波源は未だに明らかにされていません. 2011年の東日本大震災をきっかけに広く知られるようになった震源域が連動した「超巨大地震」によるものであった可能性が考えられています. 私は北海道においても東日本大震災のような巨大な津波が本当に起きうるのか, という危機感と好奇心からこのテーマに挑むことにしました.
胆振・日高地域で見つかった津波堆積物の由来
17世紀頃の地層で見つかった津波堆積物の由来として3つの候補が知られています. 1640年の駒ケ岳噴火による山体崩壊によって生じた津波, 東北地方で大きな被害をもたらした1611年の慶長津波, 千島海溝の巨大地震による津波の3つです.
もし胆振・日高地域の津波堆積物が先述した北海道東部で起きた17世紀津波によってもたらされたものであれば, M9.1 以上の規模の地震と3.11級の超巨大津波が千島海溝でも起こっていたことになります. 私はこの17世紀のみに残された津波堆積物がどのような波源でどの程度の規模の津波によって運ばれたものなのかを究明したいと考えています.
掘削調査と放射性炭素年代測定で津波の原因に迫る
北海道における古文書等による17世紀以前の記録はほとんど残されていないため, 研究では自然の書物である「地層」を調べることによって津波の発生年代や津波が届いた範囲などを調べます.
私はこのような調査をすべて人力で行なっています. 具体的には, 簡易的なボーリングをたくさん打ち込むことで噴火した時代のわかっている火山灰や砂の薄層を探し出します. これらの地層は基本的に植物が生育し, 枯死した炭素を含む有機物が少しずつ積もった地層です. この地層に残された炭素のわずかな質量の差を東京大学大気海洋研究所の所有する SingleStageAMS装置 (加速器質量分析計) を用いて測ることで精度よくその年代を知ることができます. そのため津波によって運ばれた砂層の上下の炭素を分析することで津波の発生年代が明らかになります. また, ボーリング調査によって内陸における津波堆積物の分布についても知ることができます. この分布から古津波の大きさを推定することもできるのです.
昨年の調査では日高海岸の比較的千島海溝に近い浦河町で17世紀以前の古い地層に数百年おきに堆積する砂層を発見しました. これらのイベント層はその発生間隔から海溝型の巨大地震によってもたらされた可能性が高いと考えています. もし, この複数の砂層が海溝から離れた地点で見られなくなっていった場合, 同じく海溝から離れた地域である胆振に唯一見みられる17世紀津波堆積物の波源は数百年間隔の海溝型の巨大地震による津波とは異なっていると考えられます. 17世紀津波堆積物と海溝型の巨大地震による津波堆積物の分布範囲などを比較することによって, 17世紀の津波の正体が巨大地震によるものなのか, 火山噴火による山体崩壊によるものなのかを突き止めたいと考えています.
北海道の中央部(空知−エゾ帯)には,白亜紀の前弧海盆堆積体である蝦夷層群(Yezo Group)が南北に狭長に分布する.蝦夷層群はその名が示す通り北海道(蝦夷)を代表する地層で,アンモナイトや恐竜化石の産出で知られている.しかしながら,蝦夷層群あるいはそれが堆積した海域(エゾ海盆)の発達史やテクトニクスについては,まだ解明されるべきことが残されている.
蝦夷層群は,砂岩・泥岩を主体とする陸源性砕屑岩からなり,全体の厚さは8,000 m以上の厚い地層である.その中には不整合現象の存在が古くから指摘されており,猪間(1969)はそれが示す変動を『中蝦夷地変(Intra-Yezo Disturbance)』と呼んだ.この不整合(中蝦夷不整合と呼ぶ)の存在については,西・高嶋(1999)によって疑問が表明されたが,川村ほか(1999),Ueda et al.(2002)によっていくつかの地域で再確認されている.現在のところ中蝦夷不整合が確認されたのは,空知−エゾ帯の南部地域の東側(蝦夷東帯)に限定されている.つまり中蝦夷不整合は蝦夷層群にとって普遍的なものではなく,ローカルなものである.
中蝦夷不整合自体は1950年代から知られていたわけであるが,川村ほか(1999)などによってはじめて明らかにされた重要な事実は,『蝦夷層群中部層準が低温高圧型変成岩(神居古潭付加体)を不整合に覆う』ということであった.神居古潭付加体の変成年代は白亜紀前期から最末期(〜一部古第三紀)にわたるので,白亜紀前期の蝦夷層群前弧海盆堆積体がそれを不整合に覆うということは,ある意味パラドクシカルなことである.
最近,今津ほか(2015)によって,中蝦夷不整合の示すハイエタスが15 my以下であることが砕屑性ジルコン年代からあきらかになった.このことと神居古潭付加体の変成深度から,不整合を形成した変動の上昇速度は0.1〜0.3 cm/yと見積もられる.これは,静穏な陸域の上昇速度のおよそ10倍以上の速度になり,例えば日高衝突山脈の上昇速度にも匹敵するものである.一般に前弧域はテクトニックに静穏な海盆域であり,この上昇速度については何らかの説明が必要である.
ここで注目されるのは,『前弧リッジ(Forearc Ridge)』(Pavlis and Bruhn, 1983)の概念である.前弧リッジは前弧域に発達する狭長な陸域(上昇帯)で,小アンティル諸島やアリューシャン弧の東部などにその典型例がある.それでは,前弧リッジに付加体変成岩類が露出する例はあるのだろうか? その実例は,エーゲ海にある Hellenic Arc である(Marsellos et al., 2010).ここでは,低温高圧型変成作用を受けた含Na角閃石変成岩ユニット(冷却年代:9〜14 Ma)がリッジ中央部に露出し,その上位には低角デタッチメント断層を介して新第三紀以前の炭酸塩岩・フリッシュ互層が載っている.Marsellosらによると,このような付加変成体の上昇は,アフリカプレートの沈み込み速度の急減少によって前弧域に発生した伸長変形による.
これらのことから,岩清水古陸は約110 Ma前後にエゾ海盆中に出現した前弧リッジであり,100 Ma前後に再び海中に没したと考えられる.リッジの構成地質体として低温高圧型付加変成岩が含まれることから,上昇の“根(root)”は前弧海盆基盤の下底部にあると推測される.このような前弧リッジの形成要因は今のところ不明であるが,海山体の連続付加の影響などが考えられている.
※ ここに紹介した内容は,川村信人の個人ウェブサイトの 地質アーティクルのページ で,より詳しく記述されている.
大学院の頃から砂岩の組成を研究テーマの一つにしてきた. 多くの個人研究と共に科研費の総合研究もあって, 日本の古生代末から新生代の砂岩組成と後背地の地質特性が明らかにされてきた. 日本に分布する堆積岩の多くは付加体を構成しているので, その後背地は基本的に火成弧であり, 砂岩の主要構成物は火山岩起源である. しかし, ときに火山岩の岩片をほとんど含まない砂岩が出現する. これが比較的短期間もしくはローカルであれば, 限定された後背地からの供給もしくは後背地堆積場の特別な堆積過程などで説明できるかもしれない.
九州や山口県の秩父帯と美濃-丹波帯の後期ジュラ紀–白亜紀初期 (約 4000万年のインターバル) の砂岩は, 火山岩岩片をほとんど含まず, 石英質 (SiO2に富み, Fe2O3 や MgOに乏しい) である (君波ほか, 2009). こういった特徴を持つ砂岩がこの時期に産出することを知らなかったわけではなく, いくつもの先行研究がある. 少なくとも北海道から九州まで同じような特徴の付加体砂岩が産出する. これほど広く, 長期間にわたり石英質の砂岩が出現することは, 極めて奇異である. これに対する解釈として, 北中国地塊と南中国地塊の衝突域から砕屑物がもたらされたとの主張が複数の研究者により行われている. この見解の背後には, 権威主義, 寄らば大樹の陰といった臭いがするが, それはさて置き, この解釈ではいくつかの疑問が残る. 北中国地塊と南中国地塊との衝突は, 一般に230-210 Ma (トリアス紀後期) と推定されており, 石英質砂岩の産出イベントとは年代的に合致しない. また, 石英質砂岩の産出期にも付加 (沈み込み) は進行しており, 火山弧起源の砕屑物がどこにいったのかという問いに答えていない.
この不可解な現象に直面している頃に一つの論文に出会った. Sagong et al. (2005, Tectonics) である. ここでは韓国の中生代火成岩の時空分布を検討しており, c. 160-110 Ma (後期ジュラ紀-白亜紀初期) における火成活動の静穏期の存在を指摘するとともに, その原因として低角の沈み込みやマイクロコンチネントの衝突の可能性を提示していた. 韓国でこの時期に火成活動の静穏期があるなら, 中国大陸ではどうなっているのだろう, といった疑問が湧いた. 幸いなことに中国では 2000年代に入る頃からジルコンの U-Pb 年代の測定が急速に普及しはじめた. 最近では火成岩論文の多くに U-Pb 年代の測定データがつけられている. そこで, Tan-Lu 断層付近から南東側 (東西は吉林省から広東省) のジュラ紀-白亜紀火成岩の U-Pb 年代のコンパイルを始めた. コンパイルした地域の北東部 (第 1 図) における年代データを第 2 図に示す. 細部は Kiminami and Imaoka (2013, Terra Nova) に譲るが, 次のような火成活動の変遷が浮かび上がってきた: 1) ジュラ紀と白亜紀の境界を挟んで, ジュラ紀の火成活動と白亜紀の火成活動とに分けられる, 2) ジュラ紀の火成活動終了時期は, 慶尚盆地北縁から内陸側に向かって若くなる, 3) 休止期を挟んで前期白亜紀に始まる火成活動の開始期は, 遼東半島-吉林省東部から西南日本に向かって大局的に若くなる, 4) ジュラ-白亜紀境界を挟む火成活動の休止期間は, 遼東半島-吉林省東部から慶尚盆地にかけて海溝方向に大きくなる傾向にある.
こういったタイプの火成活動場の時空分布は, 南米の非活動的海嶺の沈み込み場や北米のララミー期 (白亜紀末-古第三紀) のそれとよく類似する. これらの地域では, 沈み込むスラブが次第に低角化するのに伴って火成活動場が次第に内陸側に移動し, 水平沈み込みの完成によって広い地域 (水平スラブの上盤) での火成活動の停止が起こり, 次にスラブの高角化 (ロールバック) にともなって火成活動場が海溝側に移動してくる, とった解釈が一般に行われている. 西南日本から韓半島, 中国東部のジュラ紀-白亜紀に認められ火成活動場の時空変遷は, 沈み込むスラブのこういった形態的変化で説明可能である (第 3 図). 西南日本から北海道の後期ジュラ紀-白亜紀初期における石英質付加体砂岩の産出は, 韓半島での火成活動休止期に一致する. 韓国ではこの時期に活発な隆起運動が知られており, 深部 (12-28 km) で形成された前期-中期ジュラ紀花崗岩のアンルーフィングが進行している. 低角 (水平) 沈み込みによりスラブと上盤プレートとの密着力が大きくなり, 上盤プレートが圧縮場になることが知られている. 韓半島でのこの時期における広範な隆起・削剥は, こういった事情を反映しているのであろう.
低角沈み込みモデルの検証にとって, 低角化の原因究明は重要である. 水平沈み込みを引き起こすようなスラブの低角化は, いくつかの原因でおこると考えられている: 1) 浮力の大きな海台・海嶺などの沈み込み, 2) 上盤プレートの海溝側への前進, 3) 大陸根 (continental root; lithospheric keel) が海溝近くに存在することによって生じるスラブと上盤プレートの間の吸引力 (suction force). ジュラ紀の付加体に含まれる緑色岩の多くは, 白亜紀の四万十帯に含まれる緑色が海嶺起源であるのと異なり, 海山・海台起原である. かなり大きな海台が前期–中期ジュラ紀に沈み込んだとする見解も示されている (例えば, Koizumi and Ishiwatari, 2006, Island Arc). また, 北中国地塊の root (keel) がジュラ紀に存在したとする論文も多い (例えば, Xu et al., 2004, Contr. Mineral. Petrol.; Menzies et al., 2007, Lithos). こういったことから, ジュラ紀に形成された低角沈み込みは, 海台の沈み込みと吸引力に起因するのではないかと推定される.
Kiminami and Imaoka (2013) で提示したモデルは, 東アジアのジュラ紀-白亜紀火成活動の時空分布を説明する仮説であり, 具体的な事実に照らしてさらに検証されねばならない. 最近, Kim et al. (2016, Lithos) は, 韓半島に分布する花崗岩・火山岩の U-Pb 年代と地球化学を検討し, Kiminami and Imaoka (2013) とほとんど同じ結論を導いている. 今後の展開がどうなるのか注視しているところである.
NHKから最初の企画の相談が知床博物館にあったのは 6月の末でした. 8月にシナリオが出来上がり, 8月下旬に撮影の予定でしたが, 北海道を襲った台風の影響で撮影が急きょ 9月上旬に変更されました. 当初私は後半のウトロの地形と開拓の関係部分のみの案内人でしたが, 急きょ最初から案内をすることになってしまいました. 原稿を変更し, 再度現場検証をやり直し (何度船に乗ったかな), リハーサルの追加などしゃべることが苦手な私は大変な状況になりました. ブラタモリの収録はぶっつけ本番で, 取り直しはありません. タモリさんには番組の情報は一切知らせていません. カメラや音声を入れた案内人のリハーサルでは「タモリさんの番組ですから, タモリさんがしゃべらなくなると番組になりません. 先生は説明するだけでなく, タモリさんの会話を引き出すよう心がけて問いかけをしたり, 笑顔でタモリさんとの会話を楽しんでください.」とスタッフから言われました. またタモリさんに質問した際に返ってくる答についていろいろな場合を想定しての特訓がありました. 特に的確な答えがすぐに帰ってくると番組が予定のとおり進みませんから「その話は後でしますので, これについてまず考えてください.」とうまく流れを戻してくださいと言われました. 不器用な私が楽しく先を読んだ会話ができますか? 話す文章はカメラの横にカンペ (カンニングペーパー) が出ますが, 齢を取り視力は落ちる一方で, 文章は付け足した部分が多くて読みにくく, またスタッフの影になったりであまり頼りにはできませんでした.
収録 1日目はウトロから岬の間で何箇所か船を止め, 撮影しました. 断崖での柱状節理の説明はタモリさんの方がよく知っている様子でこちらはただ同意するのみでした. 評判が良かった片栗粉での柱状節理の実験は急に採用が決まり, スタッフが急きょ準備し, 当日やっと間に合いました. 私も見たのは本番でしたのでタモリさんの誘導に乗り, つい「パクッテいます」と言ってしまいました. タモリさんは以前知床にも来て船に乗ろうとしたそうですが, 天候が悪く乗れなくて残念な思いがあったようで今回の知床岬行きは大変楽しみにしていたようです. 日没ぎりぎりに岬の沖に着き, 自分のカメラで何度も撮影していました.
収録 2日目は小雨模様の中, ウトロ付近と羅臼の市街地の撮影でした. 最初の隆起現象が分かる露頭では, 布で横ずれ断層を起こし, そのしわで知床・国後の雁行配列を説明しました. 今回のメインの実験でしたので何回も練習し, 本番に臨みました. タモリさんは実に要領よく丁寧に実験し, 予定通りに進みました. タモリさんは絶好調でこちらの質問にはすぐに必要以上に詳しく答えを言ってしまうので, カンペは次どこから話を始めるかでとまどってしまいます. こちらも真剣に考えていると「先生かわいいネ」と茶化されました. 台本は全く当てになりません. それがブラタモリの面白さかもしれませんが. スタッフからは「何でもいいからしゃべっていてください. あとからの編集でどうにでもなりますから.」とずっと言われました. 放送ではナレーターの草彅さんがきれいに流れをつないでくれていますが, 現場は予想外の出来事ばかり.
今回の大きなテーマは「土壌化しやすい水冷破砕岩と土壌化が難しい陸上溶岩との境が世界遺産の境界」でした. 日本の海岸地形では海食崖が多く今までの番組で数多く見ているためか, タモリさんの海岸地形のセンスは抜群で, 水冷火砕岩の標高と陸上溶岩の標高差から水冷火砕岩の上に溶岩が流れていることをすぐに察しました. また, 放映ではカットされましたが収録では「溶岩デルタ」という専門用語を使い, 話を進めています. 私から「タモリさん, 溶岩がこのように流れた地形を知っていますか」と問うと, しばらくじっと考えて「溶岩デルタ?」と返答してきました. 「どうしてこんな専門用語知っているの?」 「昔読んだ本に書いてあったかなあ」. タモリさんは本当に地形や地質が好きなようです. 「笑っていいとも」のMCで旅行ができない時も, 地図がぼろぼろになるまで見て夢を膨らましていたとスタッフの人は話していました. 番組を見た人は, 事前に勉強しているのだろうと思われるかもしれませんがタモリさんの実力です.
最後に, スタッフから「合地さん, 最後に好きなこと言ってください」とけしかけられ, 「今まで知床で地質を詳しく取り上げられたことがなく, うれしい. これからも地質を番組で取り上げてください.」と全国の地質研究者を代表して ? カンペなしでしゃべってしまいました. かわいいアナウンサーの大江さんはスタッフからいじられ役で, 急にカンペで質問項目が出されたりして大変な役ですがニコニコして対応しています. さすがNHKのプロのアナウンサーです.
放送終了後, すぐにプロデューサーから好評という嬉しそうな声が携帯にかかってきました. 視聴率は 15%もあり, 歴代のブラタモリでも 5位ぐらいに位置しており, 長い恥ずかしい戦いは無事終わりました.