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研究展望
後期ジュラ紀−白亜紀初期の石英質付加体砂岩と水平沈み込み

君波和雄 (北海道総合地質学研究センター・山口大学) 2017/01/14 掲載


大学院の頃から砂岩の組成を研究テーマの一つにしてきた. 多くの個人研究と共に科研費の総合研究もあって, 日本の古生代末から新生代の砂岩組成と後背地の地質特性が明らかにされてきた. 日本に分布する堆積岩の多くは付加体を構成しているので, その後背地は基本的に火成弧であり, 砂岩の主要構成物は火山岩起源である. しかし, ときに火山岩の岩片をほとんど含まない砂岩が出現する. これが比較的短期間もしくはローカルであれば, 限定された後背地からの供給もしくは後背地堆積場の特別な堆積過程などで説明できるかもしれない.


九州や山口県の秩父帯と美濃-丹波帯の後期ジュラ紀–白亜紀初期 (約 4000万年のインターバル) の砂岩は, 火山岩岩片をほとんど含まず, 石英質 (SiO2に富み, Fe2O3 や MgOに乏しい) である (君波ほか, 2009). こういった特徴を持つ砂岩がこの時期に産出することを知らなかったわけではなく, いくつもの先行研究がある. 少なくとも北海道から九州まで同じような特徴の付加体砂岩が産出する. これほど広く, 長期間にわたり石英質の砂岩が出現することは, 極めて奇異である. これに対する解釈として, 北中国地塊と南中国地塊の衝突域から砕屑物がもたらされたとの主張が複数の研究者により行われている. この見解の背後には, 権威主義, 寄らば大樹の陰といった臭いがするが, それはさて置き, この解釈ではいくつかの疑問が残る. 北中国地塊と南中国地塊との衝突は, 一般に230-210 Ma (トリアス紀後期) と推定されており, 石英質砂岩の産出イベントとは年代的に合致しない. また, 石英質砂岩の産出期にも付加 (沈み込み) は進行しており, 火山弧起源の砕屑物がどこにいったのかという問いに答えていない.


この不可解な現象に直面している頃に一つの論文に出会った. Sagong et al. (2005, Tectonics) である. ここでは韓国の中生代火成岩の時空分布を検討しており, c. 160-110 Ma (後期ジュラ紀-白亜紀初期) における火成活動の静穏期の存在を指摘するとともに, その原因として低角の沈み込みやマイクロコンチネントの衝突の可能性を提示していた. 韓国でこの時期に火成活動の静穏期があるなら, 中国大陸ではどうなっているのだろう, といった疑問が湧いた. 幸いなことに中国では 2000年代に入る頃からジルコンの U-Pb 年代の測定が急速に普及しはじめた. 最近では火成岩論文の多くに U-Pb 年代の測定データがつけられている. そこで, Tan-Lu 断層付近から南東側 (東西は吉林省から広東省) のジュラ紀-白亜紀火成岩の U-Pb 年代のコンパイルを始めた. コンパイルした地域の北東部 (第 1 図) における年代データを第 2 図に示す. 細部は Kiminami and Imaoka (2013, Terra Nova) に譲るが, 次のような火成活動の変遷が浮かび上がってきた: 1) ジュラ紀と白亜紀の境界を挟んで, ジュラ紀の火成活動と白亜紀の火成活動とに分けられる, 2) ジュラ紀の火成活動終了時期は, 慶尚盆地北縁から内陸側に向かって若くなる, 3) 休止期を挟んで前期白亜紀に始まる火成活動の開始期は, 遼東半島-吉林省東部から西南日本に向かって大局的に若くなる, 4) ジュラ-白亜紀境界を挟む火成活動の休止期間は, 遼東半島-吉林省東部から慶尚盆地にかけて海溝方向に大きくなる傾向にある.


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こういったタイプの火成活動場の時空分布は, 南米の非活動的海嶺の沈み込み場や北米のララミー期 (白亜紀末-古第三紀) のそれとよく類似する. これらの地域では, 沈み込むスラブが次第に低角化するのに伴って火成活動場が次第に内陸側に移動し, 水平沈み込みの完成によって広い地域 (水平スラブの上盤) での火成活動の停止が起こり, 次にスラブの高角化 (ロールバック) にともなって火成活動場が海溝側に移動してくる, とった解釈が一般に行われている. 西南日本から韓半島, 中国東部のジュラ紀-白亜紀に認められ火成活動場の時空変遷は, 沈み込むスラブのこういった形態的変化で説明可能である (第 3 図). 西南日本から北海道の後期ジュラ紀-白亜紀初期における石英質付加体砂岩の産出は, 韓半島での火成活動休止期に一致する. 韓国ではこの時期に活発な隆起運動が知られており, 深部 (12-28 km) で形成された前期-中期ジュラ紀花崗岩のアンルーフィングが進行している. 低角 (水平) 沈み込みによりスラブと上盤プレートとの密着力が大きくなり, 上盤プレートが圧縮場になることが知られている. 韓半島でのこの時期における広範な隆起・削剥は, こういった事情を反映しているのであろう.


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低角沈み込みモデルの検証にとって, 低角化の原因究明は重要である. 水平沈み込みを引き起こすようなスラブの低角化は, いくつかの原因でおこると考えられている: 1) 浮力の大きな海台・海嶺などの沈み込み, 2) 上盤プレートの海溝側への前進, 3) 大陸根 (continental root; lithospheric keel) が海溝近くに存在することによって生じるスラブと上盤プレートの間の吸引力 (suction force). ジュラ紀の付加体に含まれる緑色岩の多くは, 白亜紀の四万十帯に含まれる緑色が海嶺起源であるのと異なり, 海山・海台起原である. かなり大きな海台が前期–中期ジュラ紀に沈み込んだとする見解も示されている (例えば, Koizumi and Ishiwatari, 2006, Island Arc). また, 北中国地塊の root (keel) がジュラ紀に存在したとする論文も多い (例えば, Xu et al., 2004, Contr. Mineral. Petrol.; Menzies et al., 2007, Lithos). こういったことから, ジュラ紀に形成された低角沈み込みは, 海台の沈み込みと吸引力に起因するのではないかと推定される.


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Kiminami and Imaoka (2013) で提示したモデルは, 東アジアのジュラ紀-白亜紀火成活動の時空分布を説明する仮説であり, 具体的な事実に照らしてさらに検証されねばならない. 最近, Kim et al. (2016, Lithos) は, 韓半島に分布する花崗岩・火山岩の U-Pb 年代と地球化学を検討し, Kiminami and Imaoka (2013) とほとんど同じ結論を導いている. 今後の展開がどうなるのか注視しているところである.


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ブラタモリ「知床」撮影現場より

合地信生 (北海道総合地質学研究センター・斜里町立知床博物館) 2016/12/09 掲載


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NHKから最初の企画の相談が知床博物館にあったのは 6月の末でした. 8月にシナリオが出来上がり, 8月下旬に撮影の予定でしたが, 北海道を襲った台風の影響で撮影が急きょ 9月上旬に変更されました. 当初私は後半のウトロの地形と開拓の関係部分のみの案内人でしたが, 急きょ最初から案内をすることになってしまいました. 原稿を変更し, 再度現場検証をやり直し (何度船に乗ったかな), リハーサルの追加などしゃべることが苦手な私は大変な状況になりました. ブラタモリの収録はぶっつけ本番で, 取り直しはありません. タモリさんには番組の情報は一切知らせていません. カメラや音声を入れた案内人のリハーサルでは「タモリさんの番組ですから, タモリさんがしゃべらなくなると番組になりません. 先生は説明するだけでなく, タモリさんの会話を引き出すよう心がけて問いかけをしたり, 笑顔でタモリさんとの会話を楽しんでください.」とスタッフから言われました. またタモリさんに質問した際に返ってくる答についていろいろな場合を想定しての特訓がありました. 特に的確な答えがすぐに帰ってくると番組が予定のとおり進みませんから「その話は後でしますので, これについてまず考えてください.」とうまく流れを戻してくださいと言われました. 不器用な私が楽しく先を読んだ会話ができますか? 話す文章はカメラの横にカンペ (カンニングペーパー) が出ますが, 齢を取り視力は落ちる一方で, 文章は付け足した部分が多くて読みにくく, またスタッフの影になったりであまり頼りにはできませんでした.


収録 1日目はウトロから岬の間で何箇所か船を止め, 撮影しました. 断崖での柱状節理の説明はタモリさんの方がよく知っている様子でこちらはただ同意するのみでした. 評判が良かった片栗粉での柱状節理の実験は急に採用が決まり, スタッフが急きょ準備し, 当日やっと間に合いました. 私も見たのは本番でしたのでタモリさんの誘導に乗り, つい「パクッテいます」と言ってしまいました. タモリさんは以前知床にも来て船に乗ろうとしたそうですが, 天候が悪く乗れなくて残念な思いがあったようで今回の知床岬行きは大変楽しみにしていたようです. 日没ぎりぎりに岬の沖に着き, 自分のカメラで何度も撮影していました.


収録 2日目は小雨模様の中, ウトロ付近と羅臼の市街地の撮影でした. 最初の隆起現象が分かる露頭では, 布で横ずれ断層を起こし, そのしわで知床・国後の雁行配列を説明しました. 今回のメインの実験でしたので何回も練習し, 本番に臨みました. タモリさんは実に要領よく丁寧に実験し, 予定通りに進みました. タモリさんは絶好調でこちらの質問にはすぐに必要以上に詳しく答えを言ってしまうので, カンペは次どこから話を始めるかでとまどってしまいます. こちらも真剣に考えていると「先生かわいいネ」と茶化されました. 台本は全く当てになりません. それがブラタモリの面白さかもしれませんが. スタッフからは「何でもいいからしゃべっていてください. あとからの編集でどうにでもなりますから.」とずっと言われました. 放送ではナレーターの草彅さんがきれいに流れをつないでくれていますが, 現場は予想外の出来事ばかり.


今回の大きなテーマは「土壌化しやすい水冷破砕岩と土壌化が難しい陸上溶岩との境が世界遺産の境界」でした. 日本の海岸地形では海食崖が多く今までの番組で数多く見ているためか, タモリさんの海岸地形のセンスは抜群で, 水冷火砕岩の標高と陸上溶岩の標高差から水冷火砕岩の上に溶岩が流れていることをすぐに察しました. また, 放映ではカットされましたが収録では「溶岩デルタ」という専門用語を使い, 話を進めています. 私から「タモリさん, 溶岩がこのように流れた地形を知っていますか」と問うと, しばらくじっと考えて「溶岩デルタ?」と返答してきました. 「どうしてこんな専門用語知っているの?」 「昔読んだ本に書いてあったかなあ」. タモリさんは本当に地形や地質が好きなようです. 「笑っていいとも」のMCで旅行ができない時も, 地図がぼろぼろになるまで見て夢を膨らましていたとスタッフの人は話していました. 番組を見た人は, 事前に勉強しているのだろうと思われるかもしれませんがタモリさんの実力です.


最後に, スタッフから「合地さん, 最後に好きなこと言ってください」とけしかけられ, 「今まで知床で地質を詳しく取り上げられたことがなく, うれしい. これからも地質を番組で取り上げてください.」と全国の地質研究者を代表して ? カンペなしでしゃべってしまいました. かわいいアナウンサーの大江さんはスタッフからいじられ役で, 急にカンペで質問項目が出されたりして大変な役ですがニコニコして対応しています. さすがNHKのプロのアナウンサーです.


放送終了後, すぐにプロデューサーから好評という嬉しそうな声が携帯にかかってきました. 視聴率は 15%もあり, 歴代のブラタモリでも 5位ぐらいに位置しており, 長い恥ずかしい戦いは無事終わりました.


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2017/01/14:研究展望:後期ジュラ紀−白亜紀初期の石英質付加体砂岩と水平沈み込み, 君波和雄