2020年12月から,中小規模の群発地震が石川県能登地方北部の珠洲市を中心に発生していましたが,その珠洲市で2024年1月1日16時10分頃に大きな地震(M7.6)が発生し,最大震度7を観測した強振動のみならず,その後に発生した津波などによって甚大な被害を被りました.日本地理学会の速報によれば,能登半島北部沿岸の 4.4平方キロメートルの広域でこの地震による「陸化」が認められました.また国土地理院による観測衛星「だいち2号」のデータを用いた 2.5次元解析によれば,能登半島の北部では 1メートルを超える隆起が広い範囲でみられ,とくに輪島市西部では,暫定値で最大約 4メートルの隆起が確認されました.
本講演では,このような大きな地震に先立って発生した多くの前震の活動パターン例を紹介し,実験室の断層破壊実験から導き出された法則と対比しつつ,地震の前兆現象の物理科学的解釈の可能性を紹介しました.
この種の地震活動パターンに関する情報は,地震観測システムの向上と観測体制の整備に伴って,20世紀中頃から地震予知的意義を念頭におきつつ世界各地から報告されるようになりました.とくに最近では,地震現象をテクトニクス応力の蓄積―解放過程サイクルの一環と捉え,地震破壊とプレートダイナミックスに基づく理論的モデル化の研究が急速に進められています.
一方,最近の大きな地震の活動度調査からは,地震の発生準備過程に相当する本震直前で,明瞭な b値の低下が観測されています.これは,実験室などの精密な滑り実験や,深度金鉱での AE (acoustic emission) 等で観測される現象と同様であり,本震の震源核形成過程と密接に関係している証です.本震発生直前では,テクトニック応力の載加に伴って,断層面上の強度の小さなアスペリティ(不均質な凸凹)が先立って破壊されて滑らかになったために,比較的規模の大きなアスペリティが相対的に多く発生するようになったためと考えられます.また震源核形成の初期フェーズ継続時間が観測されると,実験から得られた経験則に基づいて震源断層のサイズも予測できそうです.しかし,自然地震の場合,震源断層サイズの約 1/20 ほどの小さな前震を捉えるためには,より稠密な高感度観測網の展開が望まれます.今回の能登半島地震活動から推して,活断層領域では尚更です.
さらに,2011年 3月11日の東北地方太平洋沖地震 M9.0 の直前では,その震源域を囲むように長周期のゆっくり滑り観測や地上 300 km にある電離層密度の変化が GEONET(GNSS連続観測システム)で観測されていたなどの前兆現象も紹介しました.
なお,スタッフを除く参加人数は31名(うち会員8名)でした.写真は嵯峨山氏撮影.
(2024/9 講師:高波鐵夫記)
6月22日(土),第14回公開講座「山はどうしてできるのか」が開催されました.参加者は36名で,40代から80代にわたる広い年齢層の方が参加しましたが,70代の方が多くを占めていました.
講演では地球全体の地形的特徴,特に海と陸の本質的違いに関する解説に始まり,海洋底も含めた山の成因やその特徴について紹介しました.教科書的なプレートテクトニクスの話では面白くないと考え,これまで講演者が長年調査・研究してきた日高山脈,とりわけその最高峰の幌尻岳や,テチスオフィオライト帯のオマーンのハジャール山脈など,50年前の写真なども用いて,調査時のエピソードなども含めて,話を組み立ててみました.
全般的には大変好評で,今年開催予定の公開講座への予約も数名ありました.参加者の感想はアンケート集約結果をご覧ください.今回の講座の受講者は,そのタイトルから,山登りが趣味の方もたくさん居られましたが,世界や日本の山の写真をたくさん入れたこともあって,楽しく受講してもらえたと思っています.
この6月25日には,日高山脈は従来の国定公園から国立公園へと格上げされました.名称をめぐる問題はありましたが,その指定の最大の理由が,日高山脈の特異な地質や岩石,そして氷食地形を始めとする自然景観にあることは間違いありません.今回の講座の準備過程で,50年前の写真を発掘(?)しましたが,後世に残すべき写真がいくつかあることに気がつき,現在,それらの解説文を書いている最中です.今回のテーマは,地質学にとってはあまりにも基礎的な内容で,どのような構成にするか悩みましたが,その結果,過去の遺産の大切さを気づかせてくれた点では,講演者が一番儲かったかもしれません.なお,後世に残すべき写真については,次回に発行予定の総合地質へ投稿予定ですので,ご期待ください.
(2024/6 講師:宮下純夫 記)
本年度最後の公開講座「地球環境問題を考えるー地質学と人類の未来ー」を12月2日にかでる2.7で開催しました.広めの会場を用意し定員55名としましたが,事前予約は41名でした.当日のJR踏切事故の影響もあり,欠席が8名と多くなりましたが,予約なし1名も加わり34名の参加で盛況にて終了しました.
参加された年代は30代から80代と広範囲に渡っていますが,30〜50代の方も7名が参加されました.HRCGの会員は12名が参加し,会場責任者や受付などでも6名が参加しています.参加のきっかけは,HRCGのホームページとメルマガが最も多く,次いでチラシと知人からの紹介,本会の会員とでそれぞれ3分の1程度でした.
参加者のアンケートは30通回収されましたがメールでの感想も含め,わかりやすさやスライドの見やすさなどで8〜9割の方から極めて高い評価を受けました.次回に向けての「関心あるテーマ」では複数を選択したひとが多く,どれも10名以上でしたが,地質変動と自然災害が多い傾向でした.今回のテーマを反映してか地球環境も以前より多くなりました.
また,来年度も年間3回程度の公開講座を準備しつつありますが,会員の皆様からの積極的な企画提案をお待ちしています.
(2023/12 講師:宮下純夫 記)
・講座名称 札幌を見下ろす山々
・主催 特定非営利活動法人北海道総合地質学研究センター
・北海道教育委員会主催 2023年度前期道民カレッジ連携講座指定
・後援 札幌市, 札幌市教育委員会
・講座概要 札幌市の西部には1000 m前後の山々が連なり,市街地には藻岩山や円山・三角山が隣接,東部には小山が点在している.さらに,モエレ山が2004年に作られた.「動かざること山の如し」と例えられる.実は山にも一生があって,数百万年あるいはそれ以上の悠久の時間を経過したものもある.そのような長い時間にわたる地殻変動によって隆起した地盤の一部が海や川の浸食から免れて山となった.そして,残された山の多くは浸食に強い火山岩によってできているので,さまざまな火山地形を読み取ることができる.講座では,市街各地から見える山の姿を紹介する.そのなかで,山の地質学的な特徴,地形学から見た隆起の痕跡,アイヌ語山名などについて,理解を深めてもらう.山の神様は高所から街を見下ろし,人々を見守っている.その成り立ちを理解することで,山を守る知恵が湧いてくると思う.
・実施会場 かでる 2.7 北海道立道民活動センター (札幌市中央区北2条西7丁目) 1050会議室
・実施日・時間 2023年10月30日(土)13:30~15:30
・講師 宮坂省吾
・司会:関根達夫
・司会補助・マイク担当:岡村 聡
・受付:中川 充・松田義章・嵯峨山 積
・機材調整:関根達夫
・全体総括:宮下純夫
・広報活動:チラシ1,000枚印刷,北海道新聞「さっぽろ10区」及びまんまる新聞に記事依頼.
・報道:くらしの新聞社「週刊まんまる新聞」(9月22日付)
・広報従事者:宮下純夫,関根達夫, 中川 充,岡村 聡,石崎俊一,松田義章, 佐藤公則,村元健司,嵯峨山 積
・参加費 1,000円,500円(会員・高校生)
・事前申込み:48名(メール:25名,電話:23名)
・申込み後欠席:1名
・当日申込み:5名
・講座受講数:52名(内,会員6名)
・アンケート回収:39枚
・収益:収入50,400 円,支出35,760円. 収入-支出=14,640円.
・道民カレッジ連携講座(教養コース)
・配布資料:61部作製(A4判,9枚,裏表カラー印刷),販売数:7部
・その他:手話通訳2名出席
・企画・記録・写真:嵯峨山 積
(2023/10 嵯峨山 積 記)
・講座名称 地質学的に見た手稲山と,その周辺の山々の形成史
・主催 特定非営利活動法人北海道総合地質学研究センター
・北海道教育委員会主催 2023年度前期道民カレッジ連携講座指定
・後援 札幌市, 札幌市教育委員会
・講座概要 札幌市中心部から約15 km 北西方に位置する標高1,023 m の手稲山は,約 350万年前(鮮新世)に誕生した.安山岩や頁岩,凝灰岩などで構成され,東側には溶岩の流れたなだらかな傾斜が広がる.急崖の下部は緩斜面が連続し,5万年前より古い時代に形成された大規模な岩屑なだれの末端は JR手稲駅付近まで達している.札幌市民にとって身近な山である手稲山と,小樽方面に連なる山々の形成史について,地質学の立場から解説し,郷土の自然と歴史を再認識してもらう.
・実施会場 かでる 2.7 北海道立道民活動センター (札幌市中央区北2条西7丁目) 1050会議室
・実施日・時間 2023年7月1日(土)13:30~15:30
・講師 松田義章
・司会:岡村 聡
・企画・記録:嵯峨山 積
・全体総括:宮下純夫
・参加費 1,000円,500円(会員・高校生)
・講座受講者 45名(内,高校生1名,会員7名)
スタッフを含め部屋の定員ちょうどの大盛況となった講座であった.場慣れした講師による,身振り手振りや紙芝居を使った講演は退屈せず,アンケートでも好評がうかがわれました.また,初めて自前で手話通訳の方(2名)を用意されての参加者もあり,質問もあって良い経験となりました.講座終了後,メールマガジン購読への申込みもあり,次回への期待の大きさが感じられました.
(2023/07 中川 充 記)
このテーマは講演者が中心となって進めている,「胆振東部地震の岩盤崩壊」の記録・写真集作成プロセスの中間的集約の成果として示したものです.この調査・研究を進めれば,進めるほど作業量の膨大さを実感しています.該当範囲は厚真・むかわ(鵡川・穂別)・平取の自治体管内に広がります.この作業の成果は全て終了してから公開していたのでは意味がないと考え,個人的オリジナリティーのことは度外視して,ショロマ川西岸,幌内川流域とHRCGなどでネット公開し,さらに鬼辺岸川流域,ウクル川流域など順次公開の準備を進めています.
今,その主要部である厚真町管内については,2023年3月までには取りまとめ・公開がほぼ完了する見込みですが,岩盤崩壊のもう一つの主要な分布域であるむかわ・平取町管内については,さらに15日間程度の現地調査を必要としており,2024年3月を作業終了・公開のゴールとして進めたいと考えています.さらに,可能であれば,第一弾として厚真町管内主体に記録・写真集の形で何らかの印刷物(自費出版も含めて)が可能とならないかも模索しています.
岩盤崩壊の分布とその崩壊の程度の地域的ちがいは確かに,地下深部で活動した地震断層(活断層)の姿を間接的にあらわしていると再認識していますが,まだ十分にまとめきれいない不十分さが,今回の講演に表れてしまいました.次の機会があれば,もっとすっきりと,コンパクトに話ができるように努力するつもりです.
(2022/12 講師:岡 孝雄 記)
新型コロナ感染拡大のため,長らく休止していた公開講座「変動する地球:日本海東縁の地震帯–迫り来る地震への備え–」を10月15日に3年ぶりに開催しました.定員35名のところ34名が参加し,大盛況にて終了しました.参加された年代は30代から80代に渡っていますが,30〜50代の方も10名が参加されました.HRCGの会員は9名が参加しましたが.会場責任者や受付などでも4名参加しています.今回からHRCG会員は参加費を半額としましたが,多少とも効果があったのではないでしょうか.参加のきっかけは,チラシと知人からの紹介,本会の会員とがそれぞれ3分の1程度でした.参加者のアンケートは32通回収されましたが,わかりやすさやスライドの見やすさなどで8〜9割の方から高い評価を受けました,次回の胆振東部地震の受講希望者も10名にものぼっています.また,今回の公開講座には沼田町の町長や職員が参加され,終了後に講師と様似町学芸員との懇談する場が持たれました.公開講座を通じた自治体との協力・共同のきっかけとなりそうです.来年度からは年間4回程度の公開講座を準備しつつありますが,会員の皆様からの積極的な企画提案をお待ちしています.
(2022/10 講師:宮下純夫 記)